JUDGE審査員

共有から占有のICTへ。
プログラミング教育の
真の目的達成の鍵とは

長年、小学校の教員を経験した後、研究者として活躍する中川さん。
Sky株式会社が教育分野で展開する「SKYMENU」シリーズの開発にも
アドバイザーとして関わっています。
長年、情報教育の第一線で活躍してこられた中川さんは、
ここ数年の大きな変化をどのように捉えているのでしょうか?
GIGAスクール構想やSky株式会社の教育業界におけるプレゼンスの秘密など、
今回のコンテストに参加する学生にとっては見逃せない話をインタビューでお届けします。

中川 一史

PROFILE

放送大学 教授 博士(情報学)

中川 一史HITOSHI NAKAGAWA

メディア教育・情報教育の第一人者。文部科学省の教育の情報化に関する手引やデジタル教科書の検討に関わる委員を歴任。ICTと教育の発展に多方面から寄与している。

GIGAスクール構想が実現しようとしているものとは?

  • 近年教育業界では、GIGAスクール構想やプログラミング教育必修化など大きな変化が起きましたが、長年教育とICTについて活動されてきた先生からみて最近の変化をどのように捉えていますか?

    そうですね、ドラスティックに変わってきたと感じています。何が大きな変化かというと、一言で言うと「共有のICTから占有のICT」になった、ということかと思います。

  • 占有のICTとはどういう意味でしょうか?

    これまでは学校の中にパソコンルームなどが設置され、生徒はそこでコンピュータに触れていた。つまり、一台の端末を複数人で共有していたのです。しかし、ようやく1人1台、コンピュータを持つようになった。遅くとも2021年度中に、全国ほぼ全ての小中学生に端末(コンピュータ)の貸与が行き渡る予定です。これがGIGAクール構想の一つの成果です。

  • どうして一人一台のコンピュータを保有することができるようになったのですか?

    少しマニアックな話になりますが、これまで学校のICT整備費は政府の「地方財政措置」として扱われていました。つまり各自治体を支援する予算であり、このお金は自治体の「一般財源」に入ることになり、予算の使い道は各自治体が決めて使えます。こうなると自治体によって使い方に差が出るのは想像がつくかと思います。ある自治体ではICTの整備に予算を使っても他の地域ではICTではないところで予算を使う、ということがありました。ところがGIGAスクール構想は政府が費用を補助しますが、ICT整備以外の用途では使えないのです。

  • なるほど。コロナ禍の影響はあったのでしょうか?

    2020年、コロナ禍によって全国の小中学校が休校になったり、オンライン授業なども一気に広がったりしました。GIGAスクール構想はコロナ禍とともに登場したような印象を持つ方も多いですが、そうではありません。確かに整備の速度はコロナ禍で早まりましたが、GIGAスクール構想自体はもっと前から動いていたのです。今、自宅にPCやスマホを持っている家庭も多いと思いますが、家にはコンピュータがあるのに学校では使えない、という逆転現象が起きていました。GIGAスクール構想によって全国どの地域でもICT環境整備が進み、1人1台のコンピュータがいつも使えるようになる。これが先ほどお伝えした「共有のICTから占有のICT」です。

共有から占有のICTへ。その変化がもたらすもの

  • プログラミング教育の目的は何でしょうか

    1人1台、占有できる端末を持つことで、児童生徒がよりコンピュータに慣れ親しみ、自分の体の一部のようにICTを使えるようになる、ということでしょう。小学校でプログラミング教育が導入されていますが、これはなにもプログラマーを増やそう、ということが目的ではありません。全員コードが書ける必要はないのです。プログラミングを通して論理的思考力を養ったり、コンピュータの仕組みを理解することが目的です。小学生のプログラミング教育と高校生のプログラミング教育はねらいが全く異なります。ここを見誤ってはいけません。

  • そのビジョンを達成するための課題はなんでしょうか?

    課題はたくさんありますが、私が注目しているのは「いかに子供達がコンピュータを当たり前のように使うか」です。理想は、コンピュータと意識せずに自分の手足のように自然に使えるようになること。先生が授業の中で「はい、ではPCを出してください」と言って初めて机からPCを取り出すようでは理想とは程遠い。授業の中でどのようにコンピュータを使わせるか、そして授業以外の場面でコンピュータをどのように子供達が使うかを先生方がちゃんとイメージを持てるようにならないといけません。

  • コンピュータを特別なものとせず、ツールの一つとして自然に認識していないといけない、ということですね。

    そうですね。私はよく教育関係者の方向けに講演をする機会があるのですが、そこでも同じようなお話をさせていただきます。聴講される先生方はPCやノートを使い分けてメモをとったりしてくださるのですが、児童生徒も同じようなことが自然とできるようになってほしいです。例えばこんな児童がいたそうです。学校の委員会活動で活動していたその児童は、委員会活動の日に自発的にPCを持ってきたそうです。なぜかというと「知らない話が出たときに検索などで使うかもしれない」と思ったそうで。この話は素晴らしいなと私は思っています。先生に持ってきなさいと指示されなくても自分なりに使う必要性を感じて自分で考えて、活用する。これぞ普段使いです。多くの子供たちがこのような感覚になってくれると嬉しいですね。

  • そうなるためには何が必要だとお考えですか?

    コンピュータを目新しいものではない、という状態にすることですね。子供たちは好奇心が旺盛なので、新しいおもちゃを手に入れるとずっとそれで遊んでいます。それと同じようにコンピュータが子供達にとって特別なものになっている段階を早く越えないといけません。これは教育現場だけではなく、ご家庭でも同様です。コンピュータの利用時間を決めて管理しているご家庭も多いと思いますが、身近なモノになるまでまず慣れ親しませてみるのも一つです。制限が多いと、ずっとコンピュータは子供達にとって特別なモノのままになってしまいます。保護者にとっては難しいところかと思いますが・・・。

  • 確かに保護者にとっては難しそうですね。管理しないとなると子供はずっとコンピュータを使っていそうです。

    大切なのは、子供としっかりコミュニケーションを取ることです。監視をするのではなく、見守っていく。子供がコンピュータを触りたくて仕方がない状態を脱するまで、子供がどのような使い方をするかをコミュニケーションを取りながら見守ってほしいですね。

Sky株式会社の教育業界での取り組み

  • では次にICT教育にビジネスに何ができるかをお聞きしたいと思います。先生は「SKYMENU」シリーズの開発に関わってこられましたが、どのような考え方がサービス開発に活かされているのでしょうか?

    Sky株式会社は「SKYMENU」シリーズというブランド名称で学校のICT活用環境を支えるパッケージサービスを展開しており、私はアドバイザーとして関わっています。「SKYMENU」シリーズは生徒が自分の考えを文字や図にすることが簡単にできたり担当教員が授業のプログラムを管理することができたりするなど、児童生徒の主体的な学びをトータルでサポートしています。「SKYMENU」シリーズは毎年バージョンアップを繰り返してきていますが、コンピュータ占有の時代に入ったことでさらに可能性が広がりました。これまでのコンピュータを共有していた時代では端末をどのように管理するか、教師がどうコントロールするかが重要でしたが、占有の時代になってから児童生徒の思考をいかに可視化し、教室を飛び越えて色々なものと繋いでいく使い方ができるか、それを緩やかにまわりの大人が支えていけるか、に注力しています。

  • 民間企業の参入も多い業界だと思いますが、先生からみてSky株式会社の強みはどのあたりにあるとお考えですか?

    システム開発力はもちろんですが、それよりも強いのはSky株式会社が全国津々浦々、あらゆるところに出向いて教育現場とのコミュニケーションを続けているところだと思います。売りっぱなしにするのではなく、教育現場でどのように扱われているのか、というフィードバックを受けながら毎年毎年改善している。こうした姿勢は教育業界でも評価が高く、「SKYMENU」シリーズは広く知れ渡っています。

  • 今後の展望を教えてください。

    GIGAスクールによって占有の時代になり、児童生徒はますますコンピュータを使いこなしてくるでしょう。「使いにくい」という声が出てくることもあるでしょうし、目が肥えたユーザからの意見をいかに取り入れてより良いサービス開発ができるか。一番の理想は児童生徒が「SKYMENU」シリーズを使っているということを意識していないくらい、生徒たちの自然な存在になれることですね。商品名を認識しないで使っているような、当たり前の存在になっていたいですね。

  • 確かにGIGAスクールと環境の変化はまさに今始まったところですものね。

    私が一番懸念しているのはGIGAスクール後、どうなってしまうのかという点です。今は子供たちに1人1台のコンピュータを貸与していますが、コンピュータなので当然古くなっていきます。そうなったときに学校は同じコンピュータを使い続けるのか、それとも新しいコンピュータを導入するのか。貸与ではなく1人1台が買って保有できるようになればベストですが、コンピュータ購入は家庭にとっては負担になるので簡単にはいきません。ICTが占有され、子供たちの可能性は広がっています。この環境を持続できるようにするには教員や学校だけではなく、政府や自治体など社会全体の協力が必要なのです。

  • 今回のコンテストに参加する学生たちに期待していることはなんでしょうか?

    占有のICTという利点を生かし、教室や学校の中だけで使うサービスではなく、家庭と学校の行き来の時に使われるようなアイデアだと嬉しいですね。さらに重要なのはプログラミング教育自体に子供たちがワクワクするものであってほしい。それを支援し、イマジネーションとクリエイションという二つの創造性を育めるようなサービスを考えてほしいですね。