JUDGE審査員

プログラミング教育によって
根本から変わる、教育のあり方

小学校の教員を経て教育工学の研究者として活躍する小林さん。
初等中等教育、特に小学校のプログラミング教育の専門家です。
そんな小林さんに、Sky株式会社 アプリ開発コンテストのヒントを語ってもらいました。
プログラミング教育の真の狙い、
根本から大きく変わろうとしている先生の役割や教育環境など、
教育の「今」を知り、これからの教育現場に役立つサービスを考えてみて下さい。

小林 祐紀

PROFILE

茨城大学 准教授 博士(学術)

小林 祐紀YUKI KOBAYASHI

初等中等教育におけるICTの活用や小学校のプログラミング教育、STEM教育の研究と実践活動を行っている。著書多数。

小学校プログラミング教育は、エンジニア育成が目的ではない?

  • まず、何故プログラミングを始めとしたICT教育が盛んになってきたのかを教えてください。

    シンプルに言ってしまえば、子供たちに求められるものが変わってきた、ということに尽きます。今の子供たちが大人になる頃の社会がどうなっているか。日本は人口が急激に減少しています。このままでは経済発展の見通しが立たず、どんなことが起こるのか全くわかりません。そのような状況下で求められるのは自ら動ける人材です。このような流れで2020年度からは新しい学習指導要領が全面実施になり、またGIGAスクール構想により1人1台のコンピュータを整備しICTの活用を強く推進していく流れになりました。

  • プログラミングができるような人材を育てていく、ということでしょうか。

    いえ、よく勘違いされていますがプログラマーやエンジニアを増やしていくことだけが目的ではありません。コンピュータというものは人間の力を拡張するものだという考え方があります。つまり、ICTの力を使って人間の能力を拡張し、これからの社会変革に活かしていきたいのです。ただそのためにはコンピュータやITの仕組みを理解する必要があります。言葉のことは国語で学びますし、体のことは理科、世の中の仕組みは社会で学びますよね。でもコンピュータの仕組みを学ぶ機会はなかった。だからプログラミングを通してコンピュータの基本的な仕組みを学んでいきましょう、という考え方です。さらに、プログラミングという体験を通じて、プログラミング的思考という論理的な考え方を身につけることも意図されています。

  • なるほど、そんな考え方があったのですね。

    プログラミング教育の導入は中学校に関していえば、世界的にみても日本は導入が早かったのではないかと思います。ただ小学生にはプログラミング自体はまだ難易度が高いので、体験を通してコンピュータのことを知ってもらったり、考え方の素地を養ったりしよう、と。コロナ禍によって急にICTの話が出てきたように受け止められていますが、プログラミングに関して言えば、2013年から既に準備が進められてきました。

日本のプログラミング教育が抱えている課題とは

  • 先生から見て日本のプログラミング教育の課題はどのあたりにあるとお考えですか?

    これは日本に限らず海外でも起きていることですが、ICTを活用した教育の最大の課題は、教師のICTリテラシーになってくると思います。特に小学校の場合は、「プログラミング」という科目があるわけではなく通常の授業の中でコンピュータを使っていくことが求められています。しかし小学校の教師は教育学部の出身者が多く、先生自体もプログラミングやコンピュータの仕組みを理解しきれていない場合があります。PCやスマートフォン、タブレットなどのコンピュータは広く普及し、特に珍しいものでもなくなりました。そして子供たちも家庭ではインターネットに繋いで動画再生などを楽しむことができます。つまり、学校現場ではそれ以上の体験や学びを提供しなければなりません。それに以前と比べ、教育現場ではプログラミングだけでなく英語の授業も加わりましたし、指導内容も大きく変化しているのです。

  • 確かにそれは先生の負担は相当なものでしょうね・・・。海外でも同じような状況なのですか?

    そうですね、ただ海外はまた日本とは前提が異なっています。まず海外には日本の学習指導要領のように詳細に書かれたものは、ほぼありません。また海外では、教師同士が学び合うという文化が日本ほど定着しておらず、教え方は先生によってさまざま。授業は個人的なものだから立ち入らない、という文化すらあるように感じます。プログラミングが小学校段階で必修になっている国はそれほど多くなく、選択式の国が多いようです。そういう意味で、日本はある意味では整備が進んでいるとも言えます。

  • 日本が進んでいるというのは意外でした。

    ただ、それも良し悪しです。確かに一律で同じ教育が受けられるというのはある意味では素晴らしいことです。ただ、日本は平均点は高いかもしれませんが飛び抜けた才能が生まれてくるのはやはり海外の方が可能性が高いでしょう。

  • それはなぜでしょうか?

    日本は先生同士がお互いの授業を見合って指摘し合うことで、教師の授業力量を高めてきました。子供たちは日本のどこにいても手厚く、同じレベルの教育が受けられるという前提です。確かにこれまではそれでよかったかもしれません。ただ新しい学習指導要領でも初等教育で重視されているのは「知識・技能」「学びに向かう力・人間性等」「思考力・判断力・表現力等」です。教えすぎると子供たちは受動的になってしまいます。教えすぎず、道を示してあげるような教育の方が生徒の自発力は伸びます。そういう意味で、画一された教育ではない海外の方がブレイクスルーを起こすような才能が伸びやすいのかもしれません。難しい問題です。

これからの教育現場に求められるICTサービスとは

  • プログラミング開発コンテストに参加する学生達に期待したいことはありますか?

    教育の抜本的な変化を踏まえた提案に期待したいですね。先ほどからも述べてきた通り、教育のあり方、教師の立ち位置自体が変わってきています。これまでの教育は実証主義がオーソドックスでした。つまり、先生が知識を伝達し、生徒は教わった方法や知識をコピーできるようになればそれでよかった。でもこれからは構成主義。先生は教えることが役割ではなく、生徒と一緒になって学んでいくプロセスが重要です。一緒に作るけど先生も失敗する。でもそれを解決する姿を生徒に見せることで生徒も課題の乗り越え方を体得していく。そのような学習プロセスが実現できるサービスは魅力的だなと感じます。

  • 教育のやり方が変わるとなると、ハード面にも変化が起きそうですね

    おっしゃる通りです。子供の様子を見ていると、PCやタブレット、スマートフォンといったデバイスは使っていれば次第に慣れていきます。でもサイズはやはり大きい方が教育現場では重宝しますね。作ったものを「ほら見て」と言って気軽に見せられるサイズのもの。ノートやスケッチブックもそのように使いますよね。そういう意味では、これまでのアナログの操作感と似ているものが良いだろうなと感じます。例えるなら、いつも使っている鉛筆から違和感なく移り変わることができるタブレット用ペンのような製品などは、生徒にとってはこれまでの学びの延長で使いやすいですよね。

  • なるほど、アナログの操作感をデジタルにいかに移行できるかは着眼点の一つとして面白いですね。

    付箋やホワイトボードなど、教室現場でよく使われるアイテムが既にデジタルツールになっているケースも多いですが、まだまだ新しいサービスが出てくると思います。生徒の知的好奇心を刺激し、動機づけが高まると子供たちは勝手に学び始めます。子供のスイッチをどう入れるかがポイント。ここに民間企業のビジネスの余地があるのではないでしょうか。子供たちの学びの動機形成という意味では他者とのコラボレーションをサポートするアイデアも面白いと思います。

  • どういうことでしょうか?

    他者との共同作業はそれ自体が生徒の動機付けになるからです。これまで勉強というのは教室という同じ場所にいても一人一人が行っていました。しかし、ICTの持つ本来の性質は場所や時間を超えていろいろなところとつながり合えることです。他者とコラボし、教室の外でも広がる世界のあらゆるものを学びに変えられるようなアイデアは生徒を刺激しやすいでしょうし、学習効果も高いだろうなと考えます。

  • 負担が高まっている先生をサポートするサービスも考えられますね。

    そうですね、先ほどもお話しした通り、これからの時代の教育は先生が教え込むようなものではなく、子供の力を信じてサポートしてあげることが大切です。教員免許を取るための教育学部の授業も変わってきています。従来からもそういった仕組みはありますが、教育の変化に敏感に、他校の事例を共有したり勉強会に参加したりしながら全国の教育者と繋がる先生も増えるかもしれません。ただ、それはあくまで個人の問題意識による個人の活動です。もっと裾野が広がり、教育現場全体の授業力が上がっていくようなアイデアも期待したいですね。